抗加齢作用が期待されるとして、世界中の研究者から注目されているNMN。
NMNとは「ニコチンアミドモノヌクレオチド(Nicotinamide MonoNucleotide)」の略称で、ヒトをはじめとしたあらゆる生物の細胞内に存在する物質です。
しかし、体内のNMNは加齢とともに減少し、結果として、さまざまな体調面の変化を引き起こすと考えられています。
それでは、NMNは体内でどのようにして抗加齢作用を発揮するのでしょうか。
今回は、NMNが「若返りに効く」とされる理由をはじめ、NMNの摂取で期待できる効果や摂取量の目安を紹介します。
1.NMNを摂取すると若返るといわれている理由
食事やサプリメントなどから取り入れたNMNは、体内でNAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)に変換されます。NAD+はエネルギー産生に欠かせない補酵素で、NAD+が枯渇すると生物は基本的に生きていけません。
さらにもう一つ、NAD+には大切な役割があります。それがサーチュイン遺伝子の活性化です。サーチュインは老化や寿命を制御する遺伝子で、別名「長寿遺伝子」とも呼ばれています。
NAD+も加齢の影響は避けられず、NMNと同じように年齢とともに減少し、40代になると10代後半の頃に比べて半分程度にまで減ってしまいます。しかも、NAD+は直接摂取しても体内に吸収されにくい特性があります。
これらの問題を解決するのが、NMNです。NAD+の前駆体であるNMNを摂取して体内のNAD+量を増やせば、サーチュイン遺伝子の活性化につながるため、加齢にともなう身体機能の変化を抑制できる可能性があると考えられています。
1-1.若返りと関係の深いサーチュイン遺伝子とは
ヒトの老化や寿命と深い関係があるとされるサーチュイン遺伝子について、もう少し詳しく知っておきましょう。
サーチュイン遺伝子は、脳の視床下部に多く発現している遺伝子です。普段はあまり活発ではありませんが、カロリー制限などで飢餓状態になると活発化することが知られています。
サーチュイン遺伝子の機能は、大きく分けて以下の4つです。
- DNA修復などのコントロール
- エネルギー代謝のコントロール
- 細胞分裂のコントロール
- 体内時計に関係する遺伝子のコントロール
活性化されたサーチュイン遺伝子が老化した細胞に作用すると、DNAが修復されて細胞が「若返る」ことが明らかになっています。
なお、ヒトには7種類のサーチュイン遺伝子があり、NAD+はこの7種類のサーチュイン遺伝子すべてを活性化させるといわれています。
2.NMNの若返り効果
NMNには、病気の予防や老化の進行抑制などさまざまな効果があることが報告されています。
ワシントン大学で行なわれたマウスに対する実験では、加齢にともない生じるはずの遺伝子変化が、NMNの投与により抑制されるなど、数々の抗加齢作用が実証されました。
また、ハーバード大学の研究では、生後22カ月のマウス(ヒトでいえば60歳前後)にNMNを投与したところ、1週間後に、筋肉が生後6カ月の状態に若返っていたという報告もなされています。
このほかにも、さまざまな大学で研究が進められており、NMNの若返り効果に関する論文が多数出ています。
ここからは、NMNで期待できる若返り効果をいくつかの項目に分けて紹介します。
2-1.体力の向上
細胞の活動に必要なエネルギーの9割以上はミトコンドリアで作り出されますが、NMNを摂取して得られるNAD+は、ミトコンドリアのエネルギー産生に欠かせない補酵素です。
NMNを摂取することでエネルギー産生がスムーズになり、代謝アップや運動時に息が上がりにくくなるなど、体力の向上が期待できます。
また、65歳以上の高齢男性を対象とした研究では、NMNが高齢者の運動機能や筋力の改善に役立つ可能性が示唆されました。
2-2.眠りの質の改善
NMNの摂取でエネルギー代謝が上がり、呼吸が楽になると、睡眠の質も向上すると考えられています。 実際、65歳以上の男女を対象とした研究では、NMNの摂取で睡眠の質の有意な改善が見られました。
夜間に十分睡眠をとることは老化防止に重要であり、この点でもNMNの抗加齢作用は高く評価できます。
2-3.エストロゲンの増加
NMNには、女性ホルモンの一種であるエストロゲンを増加させる作用もあるとされています。
エストロゲンは、特に女性の老化と関係が深いホルモンです。NMNの摂取でエストロゲンが増加すれば、骨折などの老年病の予防や、更年期障害の軽減、肌トラブルの改善などが期待できます。
NMNによるエストロゲン増加の恩恵を受けるのは、女性だけではありません。エストロゲンは男性の体内にも存在し、骨量の維持に重要な役割を果たしています。エストロゲンが少なくなりすぎると男性でも骨の健康を維持するのが難しくなるため、NMNは男性の骨粗しょう症予防にも役立つ可能性があります。
2-4.思考力や集中力が高まる
NMNを摂取すると、頭がすっきりして思考力や集中力が高まるという声もあります。
脳は、使わないと機能が低下しやすくなります。しかし、思考力を高めて作業に集中すると、脳の神経細胞同士のネットワークが密になり、脳の老化を防ぐことに役立ちます。
NMNで思考力や集中力を高めることは脳の若さを保ち、生涯現役でいることにもつながるでしょう。
3.NMNの摂取量の目安は?
それでは、NMNの摂取量の目安はどれくらいなのでしょうか。
NMNは医薬品ではないため摂取量は特に決まっていませんが、過去の臨床試験の報告から一般的には一日に100~300mg程度のNMNを摂取するのが理想とされています。
ワシントン大学でマウスに投与したNMNの量は、ヒトに換算すると体重1kgあたり約8mg、つまり体重70kgの人であれば560mg程度です。
大阪大学のヒトに対する臨床試験では、NMNを一日に1,000mg摂取しても安全性が確認されているため、けっして多すぎる量ではないという考え方もあります。
なお、 NMNは、枝豆やキュウリ、ブロッコリーなどにも含まれますが、食物からはごくわずかしか摂取できません。例えば、枝豆から100mgのNMNを摂取するためには、約21kg(約33,000粒)を食べなくてはなりません。そのため、若返り効果・抗加齢作用を期待してNMNを摂るならば、サプリメントなどをうまく利用するのが現実的です。
4.まとめ
NMNは、ヒトなどあらゆる生物の体内に存在する物質で、けっして特別なものではありません。しかし、加齢に伴い体内のNMN量が減るとさまざまな加齢による変化が生じてきます。
「NMNを摂取すると若返る」といわれるのは、NMNから変化したNAD+という補酵素がサーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)を活性化し、さまざまな抗老化作用を示すためです。その効果は多岐にわたり、体力の向上や睡眠の質の改善、エストロゲンの増加や脳の活性化など、さまざまな抗加齢・若返り作用が報告されています。
これらの効果を得るためには、NMNを一日にまずは100~300mg程度から開始するのが目安であることが示されています。NMNは食材にも含まれますが、必要量を効率よく摂取するためには、サプリメントなどを利用するのもおすすめです。
健康長寿が期待できるNMNは、私たちにとって理想の成分となる可能性を秘めています。